教育と福祉の連携について

~学校に行きにくい子どもがいる家庭の孤立化を防ぐために~

先日、不登校のお子さんや家庭に理解のあるS県某市の市議さんと、教育と福祉の連携について意見・情報交換させていただきました。

福祉は、貧困・障害に関する明確な要援護者に向けた支援だけではなく、一人一人の自立やwell-being(心身共に健全な状態)をサポートする意味も持っています。それらは、横のつながりあってこそ成り立つものなので、いじめや不登校、発達特性があってもなくても、学校生活に福祉的な関わりがあることは不可欠です。

学校には、学校内の福祉的ニーズに対応するためにスクールソーシャルワーカーが配置されていますが、まだまだその必要性認識が薄く、受容と供給が噛み合っていません。

それらの現実を確認した上で、ざっくばらんに課題を出し合い、出来るだけ具体的な案となることを意識しながら話してみました。

以下は、教育・福祉混合で、その市以外で生じている課題も含んでいますが、議員さんとお話したことを元にしてまとめたものです。

特定の機関や人や構造を揶揄・非難するものではなく、子どもの自律を応援する気持ちは共通していると捉えています。ただ、成長過程において、学校に毎日通い勉強することが子どものあるべき姿という見方があまりに一般的であることで、個人的な事情が軽視されることもあるため、当事者側からも実状を視える化して、専門家や行政の事情と照合しながら具体策を見いだしてゆくことが必要だと考えています。

不登校は何故おきるのか。

家庭中心で過ごす子ども達は、学ぶことをボイコットしたわけでも、力が及ばないわけではありません。懸命に周りに合わせようと努力してきた結果、心身の不調を起こして不本意にも通学できなくなっている子どもも多いです。

そのきっかけは、以下のようなことで、周りからしたら「言ってくれればよかったのに」と思われるかもしれないのですが、子ども達は大人にとっては当たり前の知恵や生活力を持っていませんし、力も背景も一人一人違います。

友達や先生と関係がぎくしゃくしている/周りと話やノリ、スピード感が合わない/苦手な教科や単元がある・勉強に集中できない/感覚の過敏さによりそこにいることが苦痛/持ち物や約束を忘れがち/ずっと座っているのが苦痛/過去に失敗をしたことをずっとからかわれる/宿題や行事など理不尽なルールや無茶ぶりに納得がいかないが強要される/学習の進行ペースが合わない(遅すぎる・速すぎる)/授業中眠い・夜眠れない・めまいがするなど身体に気になることがある/ノートが取りにくい/給食が苦手/このままでいいとは思っていないけれども相談できる相手がいない/家で気になることがある/いじめにあっている・友達がいじめられている など

その上で、生活の大半を過ごす学校で対話する機会も少ない場合、他の大多数と自分が違うことは恐怖ですらあるとも言えそうです。

学校は、時間や資源に限界のある中で学習指導要領に沿った授業を実施する責任もあり、ある程度画一化した対応にならざるを得ない事情もあるのでしょう。

学ぶ場の多様化傾向も、良い面もあれば未成熟な面もあり、より正確で確実な何かを欲する気持ちが生じる場面もあるようです。

不登校を子どもや家庭の問題とせずに、 誰にでも起きうることと捉え、学校や教育、自立について、世の中のみんなで考えてゆくことが必要なのでしょう。

1.子どもが過ごす場所や施設の利用について

【現状の課題】
・学校内では、学校生活を継続しにくい子ども達に対して、特別支援学級・特別支援教室・通級・別室登校・保健室登校・放課後登校・プリント提出・先生による自宅訪問など選択肢を拡げつつあるが、学校や地域によってその種類や対応方法がまちまちである。
・学校以外に、日中子どもが過ごせる場所や機関が増えつつあり、 子どもの学習や社会活動確保のために利用したい家庭は多いが、 訪れた先でのトラブル報告もある。
・ 学校以外の機関や場所は、民間団体や個人によって運営されているものが多く、その場合公的補助はほぼない。当然、利用料が発生するため、利用可能な家庭が限定される。運営側も収入が不安定になりがちであり安定したサービス提供が個人の努力に任されている。
・公的な不登校対応機関や施設があっても、地理的な利便性・雰囲気や方向性の不一致・人数制限等で利用者が限定的になりやすい。 
・公的な施設(教育支援センター等)、公的補助のある施設利用(放課後デイサービス等)の利用にあたっては、医師の見解取得や本人との面談が必要なことがあるが、それらが実現しにくい。よって、利用に至るまでに時間を要するか、利用に至らない家庭がある。
・グレーゾーンと言われる子ども達は、家族の受容や本人の自覚、外部からの困り感の認識がされにくく、医療や福祉のサービス利用に至りにくい。利用に至っても、継続されにくい。
・放課後学童クラブは、一施設当たりの受け入れ可能児童数が多く、落ち着いて過ごしたい不登校の子どもは行きにくい。小規模施設にする場合は、行政からの補助が出にくい。
・上記等により、学校内外の施設利用に至らず、実質的に家庭中心に過ごす子どもが多い。
・家庭では、それまで学校に行くことで保持していたさまざまな機会の代替を模索するが、その為に新たに時間や労力が必要となり、保護者はそれまでの生活や就労スタイルを変える必要が出て来る。
・学習・対人・新たな環境に消極的になっている子どもが少なくない。
・ 民間の塾や習いごとには通える子どももいる。

【考えられる対応案】
→当事者・専門家・教育関係者等、異分野連携の場を設け、潜在的な課題や地域特有の課題を顕在化させる。
→子どもに関わる大人達が、困っている子ども達と接したり、アセスメントやモニタリングする段階で、医学モデル(問題解決モデル)ではなく、社会モデル(環境調整を図る)で関わることをスタンダードにする。
→関わり方が変化すれば、学校生活や学習面で、支援が必要な子どもの早期発見・早期対応の可能性が高まるが、潜在的な困り感に気づくポイントを整理して、教職員に周知を図る。
→困っている子に気づいた場合に繋ぐ人や機関を整理してリスト化する。
→せめて、保健衛生面でのガイドラインを作成し、運営者と利用者の安全面確保に行政が関与する。
例)コロナ禍にあるが、子ども達は貴重な成長段階にある。学びを止めないためにも、基準が明確化しやすく協力を得やすい保健衛生面から関与することはできないか。可能であれば補助金を出すことで、民間団体の把握に結びつくのではないか。社会福祉協議会と民間支援団体が協力して、子ども支援機関のリスト化を図っている地域もある。行政の何らかの機関が情報集約をスタートしない限
り、保護者それぞれがゼロから手探りする状況は変わらない。
→学びの場の確保のために、家庭もしくは一定の基準を満たした施設に必要な資金援助を行う。
→民間の塾や習いごと、居場所やフリースクール等々の場で多様な子ども達と接している大人達をゲートキーパーとし、子どもを多角的にみる視点や適切な支援につなげる方法を学ぶ場を設ける。民生委員の方々やコミュニティースクールを利用した地域連携も図る。

2.相談先の確保について

【現状の課題】

・家庭では、子どもの生活スタイルの変化をきっかけに、未経験のことへの対応が始まるが、少数派となり疎外感を持ちやすい。
・心理的な不調や経済的な事情を持つ家庭もあるが、他者には話しにくいデリケートなことであるために家庭内で抱えがちである。
・子どもと自分の心理状態が不安定になりやすい状況下で、情報収集やそれらを取捨選択することは難しい。
・現状受容がしがたく、相談予約を取ったり、経験者の話を聴こうとする行動に至るまでに時間を要する。
・学校は公益性への配慮から、民間機関の情報提供を行いにくいと聞いている。 また、相談室やカウンセラーを利用する生徒が特別視される事例もある。
・公共の相談先や医療機関は、混雑していて数週間から数か月待たされる。
・困り感の自覚や言語化、相談の場に足を運ぶことが難しい子どもは、カウンセラーや家族以外の人と関わりを持ちにくい。
・就学年齢以降は、検診等も学校に一元化され、子育てや成長発達に関する悩みを話せる場が一気に減る。親のコミュニティは、習い事や学校・塾へと移行していく。競争意識なくざっくばらんに情報交換できる場となりにくい。
・子どもが不登校となった時、 本人や家族の特性、人間関係、学習、親の就労等、生活全般に目を向けて調整する役割が家庭に任されるが、役割が多くなりすぎて機能困難となる。 生活課題には分野の区切りはないし、対応可能な時間や能力は家庭によってまちまちである。包括支援のできる人材が不足している。
・アウトリーチの必要性は認識されており、児相で検討を始める動きもあるが人的資源の確保、対応地域の網羅が課題である。
・親の会は、保護者が有志で私的に開催されているところが多いため、周知や継続がされにくい。そのような会もない地域もあるし、会は在っても子どもの年齢や周囲に知られたくない心理、時間帯のアンマッチ等で利用者が限定されやすい。
・SNS相談等、窓口も多様化しているが、不登校の受け止め方の多様さや包括支援の難しさ等により、相談が継続されにくい。

【考えられる対応案】
→最新の脳科学のデータ等を元にメンタルヘルスの大切を知る場を教育の中に盛り込む。
就学前検診や家庭教育学級の場で、もしくは子育てサークル、幼稚園や保育園等への訪問により、就学後に起きうる事例や、その際に相談できる機関を知る機会を設ける。同時に、困り感を家庭内に閉じ込めずに相談してみようという気持ちを醸成していく。
→障害や疾病に至らない段階でも、気がかりなことを相談できるインフォーマルで、学校や教育委員会の構造から離れた第三者的な相談場所、情報交換の場を設ける。日中は仕事をしていたり、周囲に知られたくない家庭向けにオンラインの相談場所や交流の場も設置する。
→専門機関での相談を待つ間に参加できる自助グループや、不登校に関するペアレントメンター的な役割を創設する。(発達障害の子を持つ家庭向けのペアレントメンター制度は存在する)
→家庭支援や相談対応者と、保護者が交流できる場を設ける。
(家庭からは、教育の多様な選択肢やグレーゾーンと言われ福祉や医療のサービス対象となりにくい層のニーズ、家庭の生活課題や陥りやすい心理状態をお伝えする、福祉側からは、それぞれの機関の役割を伝えたり、直接担当者と話す機会を増やすことで、相談やサービス利用へのハードルを下げることができないか。)
→民間団体と連携してアウトリーチ人材を増やす。

3.教育に関すること

教育に関しては、地域の保護者の方々とともに、意見をまとめられたとのことでした。そこでは、教職員・スクールカウンセラー・スクールソーシャルワーカー・支援員・相談対応者の加配、クラスの少人数制の実現、教職員の働く環境の改善等が挙げられていました。

【現状の課題】
・特に、義務教育後の進学に関して、中学校からの情報提供が少ない。受験を理由に登校刺激を強化する事例もある。
・小学校から中学校に進学する際の連携の方法・時期・対応者が、学校や地域によってまちまちである。
・ 最近は、オンラインスクールや通信制の学校自体が増加しているが、費用負担がハードルとなる。
・中学時代に不登校だった生徒が、公立高校を受験する方法やその先の過ごし方をわかりやすく示して欲しい。(内申点や出席日数の不足により進学先が狭められる。)
・就学時に求められている児童像があり、子どもの周りにいる大人も、自然と就学前の子どもにそれを求める。子ども一人ひとりがそれぞれのペースで成長する時間が持ちにくい。
・ひとり一台端末が支給されたが、利用範囲が限定的。
・小学校低学年から不登校だった子どもの基礎学力を心配する家庭が多い。
・あらゆる種類の学習障害・発達障害、特性混合の子どもに起きうることや、起きていることへの対処が乏しい。二次障害的症状を見せる子どももいる。

【考えられる対応案】
→教育の予算や方向性を決める方々と教育現場の方々が、学習障害や発達障害の子どものちぐはぐさを知り、その困り感を感じるために、研究機関や大学等と連携してVR等を使った疑似体験を取り入れる。 出来れば、ギフテッドや2Eという解釈やトラウマが与える影響の大きさについても学ぶ。
→幼保小中高校連携の実状を確認して、充実化を図る。
→IT端末を使って、遠隔でもクラスの授業受講を可能とする。
→家庭学習や他機関での活動を受容的に捉え、出席扱いにする、もしくはその子どもの未来につながる点数ではない評価のシステムを設ける。(例:ポートフォリオ化・学年にこだわらずその子どもの個性特性を鑑みた評価)
家庭中心に過ごす子ども用に教材を確立する。(優良Youtuberとの連携による家庭教育チャンネル設立・学年単位ではなく、単元ごとにダウンロードして印刷できるPDF設置・無学年式教材の配布・無学年評価の一部採用・民間の教材利用費や家庭教師利用補助の促進など)
→低学年クラスだけでも早期に少人数化を図る、もしくはサポーターを増員する。
→小学校の教科担任制を広く導入する。
→不登校の生徒が公立高校を受験する方法については、議員さんが即座に教育委員会とコンタクトを取ってくださり、情報の所在や過去の実績数、担当先を明確にしてくださいました。(各都道府県によって対応方法が違うが、確認する余地あり。不明の場合や中学校から明確な返答がない場合は、教育委員会に問い合わせてみるのが良さそうです)

4.不登校の人数について

・開示されている不登校の人数には、疾病による長期欠席は含まれていない。例えば、いじめにより医療的ケアが必要となって休んでいる子どもは、不登校とはカウントされない。

→数値を短絡的に捉えず、実状と照らし合わせてみることと、評価の方法や基準を課題の根源を確認できる方法へと改めて行くことが必要。

まとめ

以上の通りですが、まだまだ具体策とは言い切れないため、可能であれば今後もディスカッションを続けて行きたいものです。

まとめてみると、困っている人と、それに対して提供されるさまざまなものとが融合しにくく、家庭が調整役を担っている様子が見えてきます。

出来て当然と思えることも、出来なくなる時があれば、出来ない人もいるので、一般的な基準をそのままその人の価値判断に用いるのではなく、必要なところに必要なサポートが得られることが当たり前になったら良いと感じます。

困っている人が満たされる体制作りは全ての人にとってメリットがあります。その構造の実現や継続のためには、助ける人を支える仕組みも必要なのでしょう。

イクミナルでは、当事者の実状を正しく広く把握しながら、並行して今活用可能な人や場所や方法を知り、子どもをひとつの命と捉えて、つながり形成を積み重ねてゆくことを丁寧に積み重ねてまいります。

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